大団円を目指して
第13話 「驚愕」
あれから、三日が過ぎた。
にも関わらず、事態は一歩も進んでいなかった。
と言うより、後退していた。
どうしてこんな事になったのだろう。
こんな筈ではなかったのに。
何を何処でどう間違ったのだろう。
わたしは、頭を抱えたくなった。
重ねて言うが、こんな筈ではなかったのだ。
聖杯戦争の出だしを分岐の始点とした、五つの平行世界。
それらの記憶があるわたしと桜とイリヤは、言わば全ての聖杯戦争の記憶があるのだ。
そのわたし達三人が、手を組んだ。
しかも、ただ手を組んだだけの間柄では無い。
想いは一つ、信じて頼れる、仲間なんて言葉では言い表せない間柄なのだ。
更にわたし達のサーヴァントは、かの騎士王アーサーと、堕ちた女神であるメドゥーサ、そして英雄ヘラクレス。
ハッキリ言って、無敵である。
なのに、何故こんな事になっているのだろう。
ふざけるなと、声を大にして言いたい気分だ。
……まあ、原因は分かっているんだけどね。
全ては、士郎がいけないのだ。
士郎がここにいないから、いけないのだ。
どうして、士郎はここにいないんだろう。
どうして、士郎には記憶が無いんだろう。
どうして士郎には、奇蹟が起こらなかったんだろう。
士郎がいなくちゃ、どうにもならないのに。
それを、わたし達は思い知った。
否、思い知らされた。
何しろ、仲間割れをしたのだから。
まさか、このわたし達が仲間割れをするなんて思ってもいなかった。
しかも、殺し合い寸前だった。
シャレにならなかった。
今でも、思い出すと震えが来る。
あの時セイバーは、確かにライダーを殺そうとしたのだから。
とはいうものの、すぐにそんな空気はなくなったけど。
何しろライダーは、セイバーが逆上して斬り掛かった時には、とっくに逃げ出していたのだ。
素晴らしい、逃げっぷりだった。
ほれぼれするくらいの、見事な逃げっぷりだった。
最初から距離を取っていたのは、セイバーが斬り掛かる事を予想していたのだろう。
その場に残された物は風に舞う葉っぱ一枚だけという、天晴れな逃げ足ぶりである。
セイバーは束の間ポカンとしていたものの、すぐに鼻で笑ったライダーを追撃し、わたし達二人はポツンと取り残された。
サーヴァントがマスターを置いてきぼりにし、命を懸けた鬼ごっことは。
ヤレヤレである。
まあ、良い。
良くはないが、この際それは良しとしよう。
いざという時は、令呪を使って呼べば良いだけだったし。
結局、セイバーとしか合流出来なかったけど。
それより、問題はイリヤだ。
イリヤの事に比べれば、セイバーとライダーの事も大した問題ではない。
と言っては言い過ぎだけど、それでも何とかなった事だから。
あの翌日、ライダーがセイバーに謝罪したのだ。
嫉妬から言いました、と。
驚いた。
ライダーが士郎への気持ちを、桜の前であるにも拘らずハッキリと言うなんて。
セイバーも驚いていたが、彼女の驚きはライダーの気持ちに対してだろう。
わたしの驚きは違う。
ライダーの気持ちは、確信こそなかったが気付いてはいたから。
ただ、わたしと違ってその気持ちを一生口にする事はないと勝手に思い込んでいた。
それを、明言した。
しかも、桜の目の前で。
思わず桜を見るが、桜からのリアクションは特になかった。
……あれ?
何にせよ、申し訳ありませんでしたと彼女は頭を下げた。
桜とわたしからも、出来ればライダーを許して欲しいとセイバーに誠意を持って頼んだ。
幸いセイバーは、ライダーの謝罪を受け入れてくれた。
内心はどうあれ、士郎を愛する女として許せなかったと言われてしまえば、水に流さない訳にもいかなかったのだろう。
同じ男を想う女として。
最悪令呪を使う事も念頭に置いていたので、さすがに元通りの仲とはいかなかったが、取り合えずは一安心である。
それより何より、問題はイリヤだ。
全く冗談じゃないわよ。
気持ちは分からないでもないけど、何であんな事言うのよ。
何でわたし達と……ハァ。
今更言っても始まらないか。
どうして、こんな事になったんだろ。
……ああ、そっか。
士郎が、いないからか。
士郎がいたからこそ、わたし達は上手くやっていけたのだ。
何だ、そっか、そうだったのか。
分かってはいた筈のその事を、改めて思い知らされた。
いや、参ったなあ……
士郎がいれば何も問題ないのに、その士郎がここにいない。
言わずもがなだが、士郎を聖杯戦争に巻き込む事を極端に恐れる桜が反対しているからだ。
まあ、無理ないけど。
わたしだって、士郎のあんな姿はもう二度と見たくないもの。
でも考えてみたら、使い魔を張り付けるくらいの事はアリじゃないかしら。
うん、今日桜に言ってみよう。
もっとも、当時の聖杯戦争で当時のわたしがかなりの自信を持って作り出した使い魔がキャスターにあっけなく見破られた事もあるので、張り付けるなら十分に注意する必要があるだろう。
キャスターの恐ろしさは、あの頃よりも『魔法使いに最も近き魔術師』とまで言われるようになった今の自分の方が、よく理解出来るから。
時計塔門下での話だけどね。
つーか、ありゃ反則よ。
いずれにせよ、士郎が学校でランサーに殺され掛けるのは本来の歴史ではもう少し先の話なので、まだ暫くは大丈夫だろう。
士郎に令呪の兆しが現れるのも、桜によればもうちょい先の話だし。
……桜も、ちょっと怖いしね。
だが、ここまで手間取るとは思ってなかったし、その結果が仲間割れではシャレにならない。
いや、困ったなあ……
本気で困った、どうしよう。
いま一度言うが、こんな筈ではなかったのだ。
本当なら、今頃は何もかもがとっくに終わっている筈だった。
全ての聖杯戦争の記憶を持っており、更には三人ものサーヴァントがいるわたし達。
そのメリットを最大限に生かして、サクサクと敵を倒しドカンと大聖杯を破壊し、後はダラダラと平和を満喫。
士郎は正義の味方とならず、わたし達とハッピーハッピー。
みんなで末永く幸せに暮らしたのでした。
勿論、魔術師としてね。
めでたし、めでたし。
うん、こんな感じで。
しかし。
だが、しかし。
肝心の敵が、見付からないのだ。
敵を探して街を徘徊しまくっているにも関わらず、戦闘の跡は見付かっても肝心要の敵が見付からないってのは、どういう事よ。
当然あのエーデルフェルトの洋館二つも確認済みだけど、血の跡だけでバゼットとランサーの姿は影も形も無かったし。
あれから三日が経っているというのに、わたし達はまだ一度も敵と戦っていないのだ。
と言うより、遭遇すら出来ていないのだ。
……いや、ホント参ったわ。
殺すリストの残りは、ギルガメッシュとキャスターの二人。
前にイリヤと桜から聞いた話では、ギルガメッシュの魂は普通の英霊の2〜3人分はあるらしいから、
その二人を殺れば完全な形ではなくとも大聖杯は現れるだろう。
と言うか、大本の魔法陣さえ破壊すれば良い。
で、その前に立ち塞がるのがギルガメッシュな訳だが、何だかんだ言っても強敵なのでなるべく最後に回したい。
少なくとも、キャスターだけは先に殺っときたい。
見通しとしては、キャスターを殺ったあと大空洞に乗り込みギルガメッシュを殺す。
逃げ出しておいて何だが、セイバーが言うには、今の自分には聖剣の鞘があるので、足手まといがいないなら問題はないとの事。
要は二人を殺せば、後は大聖杯を破壊して終わりである。
残る他のサーヴァントの事は、それから考えれば良い。
油断も慢心も論外だが、三対一で負ける訳ないし。
そういえば、今回のアーチャーは誰なのかしらね。
あのアーチャーを呼び出せるのは、わたしか精々が士郎だけなんだけど……
ともあれ、キャスターだけは殺さなければ、終わらせる事が出来ない。
しかし、そのキャスターが見つからないのだ。
柳洞寺には全く姿を現さず、また街でもそれらしい事件は起きていない。
もしや、キャスターは既に倒されているのかもと思い始める今日この頃である。
以上が、わたし達の現状だ。
……ハァ。
どうしてこんな事になったんだろう。
これ以上学校は休めないってぇのに、何を何処でどう間違ったのやら。
わたしは、本気で頭を抱えたくなった。
何度でも言うが、こんな筈ではなかったのだ。
そんな事を自室でつらつら考えていた時、コンコンと部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「凛、夕食の支度が出来ました」
セイバーが、呼びに来てくれたようだ。
そっか、今日は桜一人に夕食の支度を任せたんだっけ。
「ん〜、今行く」
わたしは気の無い返事をしてから、よっこいしょと腰を上げる。
あ〜あ、今日も四人だけの夕食かあ……
最近とみに多くなった溜め息をまた吐いてしまう、わたしであった。
そう、イリヤはもういない。
わたしは夕食の支度をしながら、この三日間の事を色々と思い返していた。
例えば、ライダーの事。
ライダーがセイバーさんに酷い事を言ったあの日、夜中こっそりと戻って来た彼女へわたしは問い質した。
何故、セイバーさんにあんな事を言ったのかと。
ライダーは、俯くだけで何も答えなかった。
だから、わたしは言った。
嫉妬? と。
ライダーは、ビクリと身体を振るわせた。
その反応に、ついクスリと笑ってしまった。
そんなに驚かなくても良いのに。
ライダーの気持ちには、とうの昔に気付いていたのだから。
思えば、昔は不安に思っていたものだ。
いつか先輩を、ライダーに取られてしまうんじゃないかって。
ライダーの事を信じてはいるが、それはそれ。
わたしなんかとは比べ物にならないくらいライダーは素敵な女性なのだから、不安に思ってしまうのは仕方ないと思う。
姉さんは何だかんだ言って、未だに先輩を諦めてなかったし。
不安から、情緒不安定になった事もある。
我ながら、あれは酷かった。
うん……酷かった。
でも、それも今は遠い昔。
どんな不安も時が過ぎれば薄まり、そして消えて行く。
先輩と結婚して十年も経った頃には、不安など何一つなくなっていた。
この上なく幸せな時を十年も過ごせば、それも当然。
幸せとは、何よりの特効薬なのです。
えへん。
そういえばあの頃は、姉さんもいい加減結婚すれば良いのになあ、なんて事も思ってたっけ。
姉さん、三十路まであと一歩だったし。
くす。
あ、いけない、今のは姉さんを馬鹿にしてるわよね。
反省しよう、うん反省。
……あれ?
ライダーを見ると、彼女は何か恐ろしい物でも見たかのように目を見開き、全身をカタカタと震わせダラダラと汗を流していた。
どうしたんだろ?
まるで、わたしに怯えているみたいだ。
何でだろ?
わたしが、ライダーに酷い事する訳ないのに。
まあ、ちょっとしたお仕置きをする事はあるけど、そもそもわたしは人間に過ぎない。
精々が聖杯の粗悪品で、いくらわたしがマスターとはいえ、英霊であるライダーが人間に怯える必要などないだろうに。
変なライダー。
……ハァ。
少し、憂鬱になった。
別にライダーの所為じゃなくて、昔の事を考えたからだ。
昔の事を考えるたび、必ず思い出す事がある。
忘れられない、忘れてはいけない、苦い、苦い思い出。
わたしがライダーにした、最低な事。
それは、ライダーを裏切った事。
令呪を放棄し兄さんに譲り、一人戦争から逃げ出した事。
その為にライダーは……本当に酷い事をした。
自分の事しか考えていなかった事が、他の世界を知った今なら良く分かる。
本来なら知り得る筈もない事だが、比較をすれば一目瞭然。
わたしは決して許されない事を、ライダーにしたのだ。
それでも、ライダーはわたしを許してくれた。
ううん、許すとかじゃなくて。
わたしの弱さ、汚さ、醜さなど自分でも目を背けたい部分を含めて、ライダーはわたしの全てを丸ごと受け入れてくれたのだ。
だから、わたしは報いたい。
こんなわたしを慕ってくれる、ライダーの想いに報いたい。
だから、わたしはライダーを許す。
先輩に――――士郎さんに、想いを告げる事を。
違う。許すなんて、そんな偉そうな事じゃなくて。
ライダーも、わたしと同じように幸せになって欲しいだけ。
自分の気持ちを抑える辛さは、良く知っているもの。
ならば、わたしはライダーと共に、先輩を愛そう。
先輩さえ受け入れてくれれば、それはとても素晴らしい事のように思える。
ライダーだけは、わたしを絶対に裏切らないから。
それは、生涯を掛けてライダーが既に証明してくれた事実だから。
そして何より、先輩を信じられるから。
実は不安に思っていたのは、ライダーではない。
先輩だ。
ライダーが先輩を奪う事でなく、先輩がライダーを選ぶ事をわたしは恐れていたのだ。
捨てられるのが、怖かった。
愛されて尚、先輩を信じきれていなかった。
わたしは、漸く得た幸せに必死になってしがみ付いていただけだったのかもしれない。
でも、そんな心配も過去の物。
そもそも必要無かった物。
だって、先輩はわたしを愛しているもの。
今では、それが確信出来る。
先輩から愛されている、実感がある。
幸せな時の積み重ねが、それをわたしに教えてくれた。
だからね、ライダー。
自分の気持ちを押し殺さなくて良いの。
心の赴くままに。
二人で一緒に、仲良く先輩を愛しましょう。
だってわたし達は、これからもずっと一緒なんだから。
未だに震えるライダーに、わたしは笑顔でそう告げた。
その時のライダーの顔を、わたしは一生忘れないだろう。
ところで、昨日から体調が悪い。
魔力を持て余しているのだ。
門の向こう側と繋がっているわたしは、ライダーがいて尚魔力を持て余す。
もう一人か二人位サーヴァントがいると、丁度良かったりするのかもしれない。
あの頃は、先輩がいてくれたから問題なかったんだけど。
でも先輩は大変だったかも、な〜んて。
そういう訳で体調を崩した昨日は、夜姉さん達が敵を探しに外出する時も、一人家に残って安静にさせて貰っている。
ただ未だに含む所があるのか、ライダーが姉さん達と別行動を取ったらしい。
先輩がいない今、二人の仲が元通りといかないのは仕方がないが、戦争中にそんな事をしていて良いとは、ちょっと思えない。
その辺りを姉さんに聞いたら、「マズイわよ」の一言で切って捨てられ、おまけにジロリと睨まれた。
八つ当たりだと思う。
ライダーにはちゃんと姉さん達と一緒に行動するよう良く言い聞かせたのだが、その時ライダーからビックリする事を聞いた。
昨日の夜、一人で敵を探していた時に、何と新都で偶然先輩を見掛けたそうだ。
先、輩……
先輩の事を想うだけで、胸の奥がじんわりと熱くなる。
先輩は、相変わらず元気そうだったらしい。
詳しい事は、聞かなかったけど。
だって、我慢が出来なくなるから。
実際、暫くそちらへ行けなくなると先輩の家に電話した時、その声を聞いただけで感極まり涙が出た。
あの時はそれを誤魔化すのが大変で……
……会いたい。
先輩に、とても会いたい。
会って、声を直接聞きたい。
この目で、元気な姿を見たい。
愛しい貴方に、抱かれたい。
でも、今は会えない。
会えば、この戦争に巻き込んでしまうからから。
……つらいなあ。
先輩、独り寝は寂しいです。
今なら、イリヤさんの気持ちが良く分かる。
でもあの時のわたしは、自分の気持ちをイリヤさんに押し付けるだけだった。
だから、イリヤさんはあんな事を言ったのだろう。
――――わたし達とは一緒にいられないと。
イリヤさんは、もういない。
わたし達とは、三日前のあの時から別行動を取っている。
彼女は、言ったのだ。
先輩と合流しないなら、わたし達と共にいる意味はないと。
ライダー達を探している時、イリヤさんは唐突にそう切り出した。
そして、独り去った。
わたし達は、何も言えなかった。
それでも、去り行く背中にわたしは言った。
お願いします、と。
お願いだから先輩は巻き込まないで、と。
あんな姿に先輩をしないで、と。
悲鳴のようだった、わたしの声。
イリヤさんは、逃げるように駆け出して行った。
あれから、彼女には会っていない。
……ごめんなさい、イリヤさん。
わたしの気持ちを一方的に押し付けて、ごめんなさい。
でも万が一にも、先輩を死なせたくないんです。
わたし達が先輩に会う事を我慢すれば、先輩は聖杯戦争の事など何も知らずに生きていける。
実際教会の孤児達の事を、先輩は知らずに済んだ。
だからわたし達さえ頑張れば、きっと先輩は魔術師になどならず幸せに生きていける。
姉さん達に無理を言っているのは承知の上だけど、先輩のあんな姿はもう絶対に見たくないから………
そういえば、イリヤさんが抜け駆けするんじゃないか、なんて姉さんが言っていたけど、それはないとわたしは思う。
姉さん自身も、本当はそんな事を思っていないんじゃないかな?
会いたい気持ちはみんな同じだし、イリヤさんとは短い付き合いでもない。
結局の所、わたしも姉さんも彼女の事を信じているのだ。
それにあの晩、わたしは見たのだ。
姉さんの家の前から去る、イリヤさんの姿を。
ライダーとセイバーさんが喧嘩したあの夜、漸くセイバーさんとだけは合流出来て、夜も遅くに姉さんの家に帰り着いた時、その場を去るイリヤさんの姿をわたしは確かに見たのだ。
妙に急いでいる様子で、バーサーカーが何かを抱えているようにも見えたけど、遠めでチラリと見掛けただけなので、それは単なる勘違いかもしれない。
そんな事より、喧嘩別れのような形になってしまったイリヤさんが戻って来てくれた事が、わたしはとても嬉しい。
結局またイリヤさんは行ってしまったけど、さすがにすぐ戻るのは気まずいのだろう。
だから、その事は姉さんにも内緒にしている。
そんな訳で、わたしは抜け駆け云々の事は全く心配していない。
何より、イリヤさんだって先輩のあの姿は見た筈だもの。
鉄の塊となった、先輩のあの姿を。
先輩の体は剣で出来ていて。
だから、体の内側からたくさんの剣で貫かれて。
先輩とは思えない、あんな姿になってしまって。
わたし達はイリヤさんを通じて、先輩の死をリアルに体験したのだ。
わたしは、絶対忘れない。
先輩のあの姿を、わたしは一生忘れない。
姉さんだってイリヤさんだって、一生忘れられないだろう。
でも先輩が巻き込まれたら、またあんな事になるかもしれない。
わたしも姉さんもイリヤさんも、先輩には誰より幸せになって欲しいのに……
だから、わたしは我慢する。
姉さんだって、セイバーさんやライダーだって、我慢している。
なら、きっとイリヤさんだって……
「桜」
「ひあぁ!?」
いきなり誰かに後ろから声を掛けられ、わたしは変な声を上げてしまった。
「夕食の支度は、いかがでしょうか」
「え? あ、はい、その……あ、出来てる」
夕食は、いつの間にやら出来上がっていた。
考え事をしながらも、手は休めていなかったようだ。
自分でも、ビックリです。
あ、でもちょっとだけオリーブオイルを入れ過ぎたかも。
「では、凛を呼んで来ましょう」
そう言ってセイバーさんは、スタスタと姉さんの部屋へ歩いて行った。
「……あ〜、ビックリした」
いけない、いけない。
わたしは頭をぶるぶると振って、先輩への未練を頭から追い出した。
さて、考え事は一旦おしまい。
ちょっぴり失敗しちゃったけれど、お皿に料理を盛り付けましょう。
日も落ちて久しい時間である。
凛達四人は、少々遅い夕食を取っていた。
誰もが何も喋らない食卓。
カチャカチャと箸の音だけが響くその様は、上辺だけなら衛宮家でのものとそう変わらなかったが、そのじつ中身は違っていた。
纏う空気が、まるで違った。
皆が淡々と箸を進めるだけの、見るからに重苦しい雰囲気を放つ食卓。
険悪な雰囲気とピリピリとした何とも言えない緊張感に包まれたこの様相は、食卓だけで無く最近の遠坂家では良く見られる光景である。
そんな中でも、特に危険な空気を醸し出しているのがセイバーだった。
あのセイバーが、食事中であるにも関わらず厳しい表情をしている事から、その危なげな様子は容易に知れよう。
――――うぅ、胃が痛いです。
桜は一人、胃を痛めていた。
――――先輩がいてくれたら、こんな事にはならないのになあ……
この空気に耐えられない桜は、つい士郎を頼ろうとする。
他人に頼ろうとしなかった桜だが、士郎に救われ頼る事を覚えてからは、それが行き過ぎ士郎に依存するようになった。
もしも士郎が死んだ時には、躊躇無く後を追う程に。
――――ううん、先輩に頼ってちゃ駄目。
しかし、それも全ては過去の事。
士郎の伴侶として、一方的に支えられるだけで無く妻として夫を長年支え続けて来た今の桜は、当然ながら昔よりも成長しており、そして成熟していた。
伊達に、人妻をやって来た訳ではないのだ。
――――わたしが、何とかしなきゃ!
熱い使命感に駆られた桜が、意を決して場を和ますべくセイバーに話し掛ける。
「あの……セイバーさん」
「何か?」
ギロリ、と聞こえた気がした。
「な、何でもないですぅ……」
セイバーの視線をまともに受けた桜は、尻尾を丸めこてんと腹を見せ降参の意思を表す子犬のように、口を噤んで目を伏せた。
どんなに昔と変わろうと、怖い物は怖いのだ。
「……桜、私は別に怒った訳ではありません。そのような態度を取るのは止めて頂きたい」
「いえ! 別にわたしは、その……ごにょごにょ」
尻つぼみとなる、桜であった。
「また、無茶を言う」
変わってセイバーの言葉を受けたのは、鼻で笑ったライダーである。
「――――どういう意味でしょうか、ライダー」
セイバーが食事中にも関わらず、一旦箸を置いてライダーに問うた。
口調こそ静かなものの、その振る舞いが彼女の怒り具合をこれ以上無い程に語っている。
さすがにセイバーの怒りを無視出来ないのか、ライダーも一旦箸を置く。
そして態度を改めてから、真剣な顔で彼女は答えた。
「失礼。オリーブオイルを使った料理なだけに、口が滑りました」
「そんな事を聞いてるのではないッ!!」
怒る、王様。
柳に風の、蛇姫。
我関せずの、赤いあくま。
士郎のいない今、この面子で割を食うのはぶっちぎりに桜である。
黒化すれば全く変わるパワーバランスだが、士郎に関する事以外で桜が黒化する事はまずない。
つまりは、割を食い続けだ。
「あの、セイバーさん……やっぱりライダーの事、許せないんですか?」
それでも桜は、ビクビクしつつも再び口を開く。
怖い物は怖いが、それでも自分が何とかしなければという熱かった使命感が怯える桜の口を開かせる。
震えて黙り込むだけではその場凌ぎにしかならず、話が前に進まないのだ。
その場凌ぎとは、即ち逃避。
逃げると碌な事にならないのは、桜が三つの人生を掛けて学んだ事である。
「ライダーが、えっと、その……あの時あんな事、言ったから……」
「桜、それは違う」
セイバーは、キッパリと桜の言を否定した。
「悪意は多分に感じましたが、ライダーの言った事は事実です。彼女は謝罪し、私はそれを受け入れた。ですから、それは良いのです」
まあ殺意は今でも感じていますが、と怖い言葉を付け足すセイバー。
桜は、今の怖い言葉がセイバーの冗談である事を切に願った。
「士郎に会えないから、イラついてんのよ。勿論、わたしもなんだけどさ」
ここまで無関心を決め込んでいた凛が、横から口を挟んだ。
「で、セイバーは今でも反対な訳?」
「無論です。我々は今すぐ士郎と合流すべきだ」
一人箸を進めながらのついでのような凛の問いに、セイバーは一切の迷いなく即答する。
しかし彼女は、即答の後ゆっくりと一つ息を吐いた。
そして、言った。
「ですが、私のマスターは凛だ。その凛が桜の考えを支持したのならば、私に否応はない」
味気なくも素っ気ない、淡々とした答えであった。
その答えに、凛の箸がピタリと止まる。
微妙に箸が震えているように見えるのは、目の錯覚だろうか。
彼女は、静かに丁寧に箸を置いた。
そして口元に手を当て、クスリと笑いながら言った。
「あら、欲求不満?」
失笑と共にこぼれ出た言葉は、正に挑発。
どんな時でも余裕を持って優雅たれ、というのが遠坂家の家訓だが、売られたケンカはどんな時でも余裕を持って優雅に買い付けるべし、というのは凛の付け加えた新たな遠坂家の家訓であったりする。
無論そんな事を言われて、セイバーも黙っていない。
「ええ、マスターのソレがパスを通じて伝染ってきまして。困ったものです」
などと、苦笑と共に言ってのけた。
「あら、面白い事を言うのね、セイバーったら」
「ええ、マスターがマスターですから」
笑みこそ浮かべているが、完全に目の据わっている二人。
食卓に再び漂い始めた不穏な空気は、険悪と通り越し最悪となりつつあった。
されど、その物騒な空気も――――
「そ、そういえばライダーは、昨日新都で先輩を見掛けたんだよね!」
「うっそォ!!?」
「なんとォ!!?」
――――桜が慌てて振った話題により、瞬時に掻き消された。
「ちょ、ちょっと桜! 何で教え……!?」
「先輩、元気そうだったんだよねッ!!?」
「――――って、何よ桜。詳しい話、聞いていないの?」
「あ、はい……我慢、出来なくなっちゃいますから」
「そっか……でも、やっぱり水くさいわよ桜。もっと早くに教えてくれても、良かったんじゃない?」
「はい、すいません……」
小さくなりながら答える桜だが、今までの最悪な空気など何処吹く風か。
見事なまでに、食卓の雰囲気は変わっていた。
やはり彼女等には、士郎が必要なのだろう。
「ま、良いわ。で、士郎は元気そうだったの、ライダー?」
肩を竦めながらのそれでも笑顔の凛の問いに、やはり笑顔のライダーが答えた。
「ええ、とても元気でしたよ。ところでリン、一つ質問があるのですが?」
「何よ?」
「今の士郎は、聖杯戦争についてどの程度知っているのでしょうか?」
「ハァ!? どの程度って、今の士郎は何も知らないわよ」
唐突なライダーの問いだったが、この時期の士郎が聖杯戦争の事を何も知らないのは言わずと知れた事実である。
故に、当然の事を当然のように凛が答えた。
しかし、ライダーは眉をひそめて首を振る。
「リン、そんな筈は無いでしょう」
「何で?」
「士郎は私を、一目でライダーのサーヴァントと見抜きましたから」
実に、実にあっけなく言われたライダーの言葉に、周りの皆は例外なく固まった。
ですから聖杯戦争の事は当然知っているでしょう、と続けるライダーだったが誰も聞いてはいなかった。
「嘘……」
「いえ、決して」
思わずこぼれた桜の言葉に、ライダーが素早く反応する。
その言葉、極めて簡潔にして明瞭。
それだけにライダーの勘違いとは、桜にはどうしても思えなかった。
となれば、答えは一つしかない。
「まさか、先輩……とっくに巻き込まれて……」
「行くわよッ!!」
椅子を蹴倒し立ち上がりながら、叫ぶが如く言い放つ凛。
そして駆け出す。
士郎に会う為に。
その胸に、強烈な後悔の念を渦巻かせながら。
わたしは何を考えていたのだろう。
士郎が死ぬのは、本来の歴史ではもう少し先だから大丈夫?
何を馬鹿な事を!
既に歴史は変わっているのだ。
ならば士郎が無事な保障など何処にも無いのに、それを勝手に大丈夫だと決め付けて……
何というポカ!!
ポカもポカ、信じられないような大ポカだ!
これも遠坂の血筋が成す業か、クソッ!!
わたしは必死に走りながら、この遠坂家の宿命ともいえる遺伝的な呪いを心の底から罵倒した。
この頃の士郎が聖杯戦争の事を何も知らないのは紛れもない事実であり、もしも知っているならば、それは士郎が既に聖杯戦争に巻き込まれたという驚愕の現実に他ならない。
それに気付いた彼女等は、士郎の家にひた走る。
愛する男の無事を、この目で確かめる為に。
「セイバーッ!!」
「ライダーッ!!」
それぞれのマスターの呼び声を合図に、己のマスターを抱え、跳ぶように走る二人のサーヴァント。
遠坂邸から衛宮邸までの距離も、サーヴァントの足なら取るに足らない距離である。
あと少し。
あともう少しで、士郎に会える。
抑えきれない不安と、それでも湧き上がってしまう歓喜を胸に、サーヴァント二人は月明かりの下を力の限り疾走する。
愛する男に会う為に。
そして士郎を愛する四人は、とうとう衛宮邸の門の前に降り立った。
「あら、遅かったのね」
そして衛宮邸の門の前には、悠然とたたずむ女がいた。
不敵な笑みを浮かべながら、出迎えの言葉を述べる少女。
その名を、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンといった。
「イリヤ……」
「イリヤさん……」
「何故ここにって顔ね。決まってるでしょ、シロウが巻き込まれたからよ」
「ふ、ふざけんじゃ……!」
「どういう事ですか?」
激した凛の言葉を静かに遮り、桜が問う。
静かな問いは、桜の激しい怒りの表れである。
それでも桜は、懸命に自分を抑えていた。
イリヤにも何らかの、避けようも無い理由があったかもしれないからだ。
無論、返答次第で只では済まない。済ませない。
只で済まない場合、言うまでもないが即殺し合いである。
今の今まで士郎に会う事を耐えて来た桜は既に限界に達しており、何より裏切られたという想いが、桜にはあったのだ。
「そんな怖い顔しないで欲しいわ。別に、抜け駆けした訳じゃ無いんだから」
わたしだって会うのは我慢したのよ、と殺気立つ桜に肩を竦めながらイリヤが答える。
「良く聞きなさい、サクラ。シロウはとっくに巻き込まれていたの。いえ、自分から巻き込まれていったのね」
諌めるように言うイリヤ。
しかし桜は殺気立ったまま、イリヤから視線を外さない。
「だから、そんな顔しないでってば。わたしはシロウを助けてあげたんだから」
「助けてあげたって……先輩に何かあったんですかッ!!?」
「言ったでしょ? シロウは自分から巻き込まれていったって。残念だったわね、サクラ。やっぱりシロウは勝手に首を突っ込んできたのよ。
そして、死に掛けたわ。
ああ、大丈夫。シロウはわたしが助け……キャッ!」
血相を変えた桜が、イリヤを押しのけ士郎の家に駆け込んだ。
口を挟めずに黙っていたライダーとセイバーも、急ぎ桜の後に続く。
「……全く。人を押しのけるなんて、レディにあるまじき行いだわ……フフッ。今更、貴女の出番はないのにね、サクラ」
「それ、どういう意味よ?」
桜達の駆け込む姿を見ながら呟いたイリヤの言葉に、この場に敢えて残った凛が反応した。
「別にぃ。それより良いの? リンはシロウに会わなくて」
「クッ……後でキッチリ聞かせて貰うからね!」
僅かな葛藤の後、捨て台詞のような言葉を残し凛も桜の後を追い掛けた。
「……リン、貴女がいけないのよ。あの時、セイバーを連れ帰っていなかった貴女が。それに貴女の出番も、もう無いの」
凛の駆け込む後ろ姿を見ながらそんな事をポツリと言いつつ、イリヤは悠々と衛宮家の門を潜る。
そして、クスリと笑ってこう言った。
「今回は、わたし達の番だもの」
桜を追い掛けた凛だったが、衛宮家の廊下で立ち尽くしている桜達の後ろ姿を見て思わず足を止める。
「ちょっと桜、どうした……」
戸惑った凛が桜に声を掛けるが、途中で絶句し桜達と同じように立ち尽くす。
何故なら桜の向こう側には、今この時この家にいる筈のない人物が立っていたからだ。
「綾子ォッ!!?」
「遠坂までェッ!!」
美綴綾子が、そこにいた。
全員が言葉を失う中、最初に口を開いたのは凛だった。
「……美綴さんは、どうしてこんな時間に衛宮君の家にいるのかしら?」
「ア、アンタらこそ……何しに来たのさ……」
素敵な笑顔の凛の問いに、何処か怯える様子を見せながら綾子が答える。
その視線の先にいるのは、凛ではなかったが。
「あら、何しに来たとはご挨拶ね、美綴さん。それはこちらの台詞なんですけど」
しかしそんな事はどうでも良いと、凛は構わず問いを続ける。
士郎の家に綾子がいる事こそが、彼女にとっては一番の問題なのだ。
「それで、どうなんですか? まさか美綴さんに限ってとは思いますが、まだ答えを聞かせて貰っていませんよ? 理由次第では、こちらも考えますが」
「遠坂、桜……お前等、まさか本当に……」
故に笑顔で追い込みモードに入る凛だったが、綾子は聞いていなかった。
そして、決定的な言葉を言った。
「……マスターか?」
綾子の言葉に、空気が一変する。
本来この場で出る筈のない、マスターという言葉。
その意味を考えれば、今の言葉を無視する事など出来なかった。
「ふ〜ん……色々と話し合う必要がありそうね、綾子?」
肉食獣のような笑みを浮かべる凛と、怯えながらも警戒した顔を見せる綾子。
だが綾子がどれだけ警戒しようと、サーヴァントすらいるこの状況で彼女に何が出来る訳でもない。
無論、逃げ出す事も出来ない。
そんな時、傍からのんきな声が掛けられた。
「うわあ、ホントに桜ちゃんだ。遠坂さんに、知らない人達までいるけど」
この瞬間、張り詰めていた緊迫感というか何というか、そういったスリリングなもろもろ全てが霧散した。
「「ふ、藤村先生!?」」
「うん、先生だよ〜! 久しぶり、桜ちゃんに遠坂さん。二人とも、元気に学校ズル休みしてる?」
「「は、ズル休み!?」」
「あれ、もしかして学校休んでないの? 凄いね、二人とも。うん、感心感心」
「「ハ、ハァ……」」
わたしの方は見逃してね、などと続ける大河だったが、どう考えてもお門違いな会話に凛と桜は何と言って良いか分からなくなった。
ちなみにサーヴァントの二人は、全く口を挟まなかった。
「ところで、こちらのお二人は誰なの? 何かすっごく雰囲気あるっていうか、人間とは思えないくらいスンゴイんだけど」
「そ、それは……」
大河のペースに巻き込まれた二人は、咄嗟に答えられず言葉を濁すが、
「サーヴァントに、決まってるでしょ」
と背中から聞こえたシャレにならない内容の声に、意表を突かれ振り向いた。
そこにいたのは、やはりと言うかイリヤである。
「あ、やっぱり」
そしてアッサリと言われた大河の言葉に、凛達は驚愕の余り固まった。
信じられないといった彼女等の表情。
そして、再び高まる緊張感。
しかし、一人のほほんとする大河。
大河は逆に、そんな周りを不思議に思っている。
「どうしたのよ、みんな。そんなに怖い顔なんかしちゃったりして?」
「だ、だって、マスターとサーヴァントですよ!? だったら衛宮の……!」
「大丈夫よお」
まるでサーヴァントの恐ろしさを知るかのように喚く美綴だったが、大河は再度アッサリ言ったのだった。
「桜ちゃんが、士郎の敵な訳ないもの」
あっけらかんとした大河の言葉に、高まった緊張感は再び消え失せる。
というか何か弛緩した。
「……さすがですね、タイガ」
「えっと、わたしを大河と呼ぶ貴女はだあれ?」
「初めまして、タイガ。私はライダーと申します。桜より話はかねがね」
「あ、ライダーさんは桜ちゃんのサーヴァントなんだ」
「はい」
「って、ちょっと待ったァ!」
先程からポンポンと飛び交う聞き逃せない単語の羅列に、凛はたまらずツッコんだ。
もはや詰問とか詰め寄るとかのレベルではないが。
「いきなりどうしたのよ、遠坂さん。そういえば、桜ちゃんはともかく遠坂さんは何しに来たの?」
「……あら、失礼な位のご挨拶ですね、藤村先生。わたしが衛宮君の家に来る事が、そんなにおかしいですか?」
「うん」
シンプルに大河が答えた。
もっともな答えに、口ごもる凛。
その時、居間から声がした。
「おーい! お茶が入ったぞー!」
瞬間、桜は駆け出した。
何も考えず、何も考えられず、ただ士郎の胸に跳び込む為に。
僅かに遅れて続く、凛、セイバー、ライダーの三人。
居間に押し入る四人。
驚く士郎。
構わず士郎の胸に跳び込む桜。
士郎を抱き囲む、他の三人。
そして安堵に包まれる四人。
その目は、涙に濡れていた。
――――――――嗚呼、これでもう大丈夫だ。
何もかも、これで大丈夫。
恐れる事は何もない。
恐れる事など何もない。
これでもう全てが……
「他人のマスターに、何をしているのかしら?」
コトリと湯のみを置く音と共に、声がした。
あり得ない声に面食らった皆が、声のした方向へ視線を向ける。
そしてそこには、女がいた。
食卓の前、一人静かにお茶を飲んでいた女。
女は、家の中にも関わらず紫のローブを纏っている。
その顔はフードに隠されておらず、空色の髪が揺れていた。
清楚な顔立ちと、尖った特徴的な耳。
稀代の魔女。
衛宮家の居間には、キャスターがいた。
続く
2006/4/4
By いんちょ
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