これは、夢なのだろうか。
きっと、夢なのだろう。
だって、先輩の隣にいるのが、わたしじゃ無いもの。
先輩の隣にいるのが、姉さんだもの。
だから、これはきっと夢。
夢でなければ、いけないのだ。
だって、先輩がわたしを置いて、行ってしまうんだもの。
わたしを置いて、姉さんと幸せになってしまうんだもの。
わたしはそれを、指を加えて見ている事しか出来なかった。
この身は穢れているからと、諦める事しか出来なかった。
何もしなかったのだからと、自分を慰める事しか出来なかった。
その癖、先輩の傍にはいたくて。
傍にいる事位は、許されると思って。
でも、先輩はわたしを置いて行ってしまって。
姉さんと二人で、行ってしまって。
傍にいる事すら、出来なくなって。
姉さんだけが、一緒にいる夢。
セイバーさんも、一緒にいる夢。
少しだけ違う、でも結局は同じ夢。
そこにわたしは、いないのだから。
だから、これもきっと夢。
夢でなければ、いけないのだ。
だって、先輩の心の中には、セイバーさんしかいないもの。
わたしの入る隙間なんか、これっぽっちも無いもの。
そして、わたしは置いて行かれた。
正義の味方を追い求め、先輩は行ってしまった。
こんなにも、愛しているのに。
どうして、気付いてくれないのだろう。
こんなにも、先輩だけを愛しているのに。
例え、言葉に出さずとも。
例え、気持ちを伝えずとも。
気付いて欲しい、わたしの気持ち。
だから、置いて行かないで。
狂おしい程、愛しているから。
………馬鹿みたい。
こんなのは、夢に決まっているのに。
全ては、夢だ。
夢に過ぎない。
だって、先輩の隣にいるのは、わたしだもの。
姉さんで無く。
セイバーさんでも無く。
先輩に愛されているのは、わたしだもの。
一度は、全てを諦めた。
でも、先輩は諦めてくれなかった。
そして、わたしを助けてくれた。
そして、わたしを叱ってくれた。
そして、わたしを選んでくれた。
正義の味方では無く、
わたしを選んでくれたのだ。
これは姉さんを選んだ時には、あり得なかった事。
セイバーさんを選んだ時にも、あり得なかった事。
先輩は、わたしだけを選んでくれたのだ。
だから、わたしは自信を持って言える。
胸を張って、言える。
先輩は、わたしを愛しているのだと。
それは、何て素晴らしい事なのだろう。
それは、何と幸せな事なのだろう。
だから、平気。
どんな夢を見ようとも、平気。
これは、只の夢なのだから。
先輩が、セイバーさんと結ばれる夢を見ても。
先輩が、姉さんと結ばれる夢を見ても。
先輩が、姉さんと結ばれてセイバーさんとも一緒にいる夢を見ても。
わたしは、平気。
全然、平気。
だって、夢だもの。
先輩は、わたしを愛しているんだもの。
だから、これが夢じゃ無くても、平気。
例え、あり得たかもしれない世界の一つだと気付いても、平気。
そう、わたしは気付いてしまった。
これは、夢じゃ無い。
これはきっと、わたしが勇気を出せなかった世界の出来事。
戦うのが怖くて、逃げ出したわたし。
全ての事に目を瞑り、何もしなかったわたし。
それは、先輩とセイバーさんが、結ばれる世界。
穢れた自分を知られるのが嫌で、何も出来なかったわたし。
辛くて悲しくて、それでも助けて欲しいと言えなかったわたし。
それは、先輩と姉さんが、結ばれる世界。
何て、惨め。
そして、わたしは夢の続きを見る。
また、嫌な夢なのだろうか。
また、嫌な夢なのだろう。
けど、平気。
どんな夢でも、ドンと来いだ。
先輩とわたしは、愛し合っているのだから。
どうせこれも、あり得たかもしれない世界の一つなのだろう。
先輩とわたしが結ばれて、二度と会えなかった………
………え?
二度と………会えなかった?
………先輩が………………わたしの元に………………………
帰ってこれない?
………………………先輩が………………………
………………帰って………………
………来ない………
それは
先輩が
死んだ
これは、夢なのだろうか。
………ま、夢でしかあり得ないか。
だって、ねえ?
わたしと士郎が、付き合っているんだもの。
わたしが、本ッ当に幸せそうなんだもの。
だから、これは夢。
夢でしか、あり得ない。
だって、わたしがあんな顔してるのよ?
このわたしが、あんなに安心しきった顔してるのよ?
あー、嫌だ嫌だ。
未練がましいったら、ありゃしない。
自分では、もう少し割り切った性格をしていると思っていたが、意外とそうでも無い様だ。
夢のわたしを、本気で羨ましいと思ってしまうのだから。
夢のわたしは、士郎に惚れきっていて。
でも、きっちり魔術師で。
夢の士郎は、わたしに惚れきっていて。
でも、しっかり正義の味方で。
そして、二人はハッピーで。
夢を手に入れ、愛を手に入れ。
幸せいっぱい、夢いっぱい。
二人は、もうこれ以上無いって位、最高にハッピーで。
わたしの隣に、士郎がいる夢。
わたしの隣に、セイバーもいる夢。
少しだけ違う、でも結局はあり得ない夢。
士郎は、桜の恋人なのだから。
だから、これは夢なのだ。
夢でなくては、いけないのだ。
だって、士郎が行ってしまうんだもの。
たった独りで、行ってしまうんだもの。
桜を置いて。
イリヤを置いて。
藤村先生を置いて。
わたしすらも、置いていかれて。
自分の理想だけを追い求め、士郎は行ってしまった。
こんなにも、桜は士郎の事を愛しているのに。
こんなにも、わたしは………
まあ、ちょっと位はアレなのに。
イリヤだって、いるんだから。
ついでに、藤村先生だっているんだから。
だから士郎、行くんじゃ無いわよ。
守護者なんかに、なるんじゃ無いわよ!
………馬鹿みたい。
大丈夫に、決まっているのに。
そう、あいつは大丈夫。
あいつは、アーチャーにはならない。
だって、あいつには桜がいるんだから。
あいつには、守る物があるんだから。
だから、絶対に大丈夫。
これが夢で無くても、大丈夫。
そう、わたしは既に気付いていた。
これが、夢では無い事を。
おそらく、これは平行世界。
他の世界の、わたしの出来事。
わたしと士郎が結ばれる世界もあるんだなあ。
何て事を、ボンヤリと考えた。
………エヘッY
って、いけない、いけない。
そんな場合じゃ無かった。
つい、ニヤけてしまった顔を引き締める。
平行世界。
第二魔法。
それは、遠坂家六代の悲願。
その悲願を目の当たりにしている今、ボンヤリしてる暇など全く無い。
いささかも無い。
これっぽっちも無い。
ハズなんだけど………
………ま、いっか。
何しろ、桜は幸せそうだし。
桜が、心から笑っているし。
そんな世界は、わたしの生きた世界でしか、あり得ないんだし。
だから、良い。
これで、良い。
桜には、笑っていて欲しいから。
そして、わたしは夢の続きを見る。
また、何処かの平行世界だろうか。
また、何処かの平行世界だろう。
ふむふむ。
これは、貴重な経験だ。
また、遠坂家の悲願に一歩近づいた。
しめしめである。
あの宝石剣のお陰で、道筋はついた。
後は、時間とお金だけ。
………まあ、時間はともかく、お金だけはどうにもならないんだけど。
本気で、ルヴィアの所で働こうかしら?
それで、宝石をごっそりかっぱらうとか。
………少し、悲しくなった。
それはともかく、今はこの夢だ。
さてさて、今度はどんな夢なのかしらね。
わたしは、一人でも大丈夫。
だから、桜には笑って欲しい。
何時でも何処でも、笑っていて欲しい。
そんな、夢である事を祈る。
願わくば、
桜とわたしと、
ついでにあいつにとっても、
幸多からん夢である事を。
そして
士郎は
桜を残して
これは、夢なのだろうか。
な〜んて、自分でも分かっている事を言ってみた。
大体、夢なんか見られる訳無いのよね。
だってわたし、もう死んでるし。
この身は、既に大聖杯だし。
詳しい説明
は省くけど、
つまりは、まあ、そういう事だ。
だから、これは夢じゃ無い。
それは、すなわち平行世界。
なんと、第二魔法なのだ〜!
って、なにタイガみたいな言い方してるのかしら、わたし。
きっと、平行世界のわたしに影響されたのね。
この世界
じゃ、会ってはいない筈だもの。
むむぅ。
大聖杯となったわたしにまで、影響を与えるとは………
タイガ、恐るべし。
―――って、あれ?
何の話だっけ?
え〜っと………
あ、そうそう、夢の話。
で、夢の話なんだけどね。
そこのわたしは、笑っていたの。
幸せだったの。
わたしがいて、シロウがいて。
ついでに、タイガもリンもサクラもいて。
シロウの次に好きな人達が、たくさんいて。
わたしは、本当に幸せだったの。
でも、ダメね。
独りで、行っちゃうから。
セイバー
だけを追い求めて、シロウが独りで行っちゃうから。
いくら、わたしが生きていても。
例え、わたしが笑っていても。
どんなに、わたしが幸せでも。
シロウがアレじゃあ、この世界はダメ。
わたしの幸せは、二の次。
と言っては言い過ぎだけど、とにかくまずは士郎の幸せ。
次に、わたしの幸せ。
後は、リンとかサクラとか………
お情けで、タイガとか。
まあ、その辺り。
だから、ここはダメ。
でも、他はもっとダメ。
だってわたし、死んじゃうし。
心臓抉り出されて、死んじゃうし。
死ぬのは別に構わないけど、途中で死ぬのは頂けないわよね。
シロウが幸せになれたのか、分からないもの。
平行世界のシロウは、幸せになれたのかしら?
なっているとは、思う。
なっているわよね?
なっていて、欲しいなあ………
な〜んて、言ってみたけど大丈夫。
セイバーを選んだ世界
は、たまたまよ、たまたま。
桜を選んだ世界
じゃ、シロウは幸せになれたんだもの。
だから、大丈夫。
■が、いるんだもの。
だから、絶対………
―――あれ?
誰だっけ?
え〜っと………
タイガ?
うわ、それ絶対違う。
あれ? ホントに誰だっけ?
シロウじゃ無くて、タイ■じゃ無くて、■じゃ………
………まあ、良いや。
とにかく、こっちじゃシロウは幸せになったの。
だから、これで良いの。
シ■ウとは、二度と会えないけれど。
本音を言えば、未練はあるけど。
わたしが幸せになる世界も、あったのだけれど。
それでも、シ■■が幸せならば、後悔は無い。
だから、これで良い。
そう、これで良いのだ。
………でも。
未練は無い。
後悔も無い。
それはホント。
でも………
………会いたい。
もう一度、会いたい。
会いたい。
会いたい。
会いたい。
会いたいよお………………
■■■。
大切な。
とても大切なヒトの名前すら、思い出せなくなった。
そろそろ、限界なのだろう。
この身は、既に大聖杯。
わたしは大聖杯として、このまま悠久の時を過ごす。
故に、ヒトでは無くなる。
記憶も無くなる。
意識が無くなる。
自我すら無くなる。
そして、本当の意味で、わたしは大聖杯となる。
だから
このまま
■■■
のコトを
わすレ
テモ
それ
ハ………
………イヤ、ダ。
イヤだ。
いやだ。
異やだ。
厭だ。
そんなのは、嫌だ。
会えないのは、良い。
しょうがない。
でも、忘れるのは嫌だ。
忘れるのだけは、絶対に嫌だ。
だから、思い出す。
■■■の事を、思い出す。
この身は、既に大聖杯。
大聖杯とは、奇蹟その物。
魔法をすら越えた奇蹟。
それがわたし。
ならば、■■■の事をもう一度思い出す事位、何程の事でも無い筈だ。
そして、わたしは夢の続きを見る。
大好きな。
わたしの大好きなシロウの夢を見る。
おそらくは、これが最後の夢。
イリヤとしての、最後の夢。
心から、願う。
続く
2004/10/6
By いんちょ