随 想(思いつくまま)

(9/28) 戦後60年の平和を考える
 明治政府発足以来、日清・日露戦争、満州事変、日中戦争、第2次世界大戦と戦争に明け暮れた日本に、戦後60年間、戦争がなかったことをどう考えたらよいのであろうか。この点につき平和憲法の存在を重視する立場と、アメリカが守ってくれたからだとする二つの立場がある。栗原優著「現代世界の戦争と平和」はこの問題を詳細な戦争統計と、第1次世界大戦第2次世界大戦の開戦にいたる詳細な経過およびベトナム戦争を徹底的に検討し、結論を出している。
 本書は第2次世界大戦以後、先進国間の戦争は起こっていないとする。現代世界はこの大きな流れの一環にあるとする。この現象はむしろ1871年普仏戦争後つまりフランスとプロイセンの交戦の結果統一ドイツが誕生し、欧州先進大国の線引きが完成した時点にまで遡ることができるとする(この間、第1次、第2次世界大戦があったが、両戦ともドイツの意図した後進小国に対する局地戦が図らずも拡大した戦争であり、ドイツは(日本も)先進国と戦争する気は全くなかったとする)。1871年以降の戦争の殆んどが先進諸国の後進地域に対する本格的植民地獲得競争であり、第2次大戦後の戦争内紛は植民地の独立をめぐる戦争、独立した国々の国家体制の不安定から来る民族間、体制性内権力争いによる内紛であり、植民地の大部分が独立した今日、先進国間の戦争目的もなくなったとする。
 アメリカが守ってくれたのではなく、そもそも日本を侵略しようとした国がなかったのである。ソ連の脅威が取り沙汰されたが、いまだソ連が日本を侵略しようとした実証資料は発見されておらず、フルシチョフ回顧録等からもその痕跡はない。反面平和憲法が存在しなければ確実に内紛戦争に武力行使していたであろうという。
 第3次世界大戦は戦勝国も敗戦国もない人類破滅への道であることは間違いない。そのことが抑止力として働いていると言うよりは、「先進国の平和」の一環にある。そういった意味でも日本国憲法は未来を先取りしたものである。

 やがて世界は核武装した先進国各国並立の時代を迎えると思われる。時代の流れに逆行し、憲法を改定し、集団自衛権を標榜し、他国の”予防戦争”の片棒を担ごうとする動きが加速している中にあって、「60年の平和」は薄氷の上の平和であることを自覚すべきであろう。
 「現代世界の戦争と平和」 著者:栗原優 発行所:ミネルヴァ書房
                  2007年6月20日初版第1刷発行