随 想(思いつくまま)

(9/23) 事典を読む
 グローバリゼーション新自由主義・批判事典
 
事典とはあるテーマの網羅的解説書と云う点では辞書と同類である。辞書を読むとなるとかなりの忍耐力を要求される。それは直接興味がない事項までお付き合いを強いられるところからきているからだと思う。しかしこの事典は物事をある角度から批判的に見ると、かくも見方が異なるのかと云う意味で退屈しない。かなりの忍耐力は必要だが。
 物心ついたころは必読の書として「資本主義から社会主義へ」などが挙げられ、世の中は当然資本主義から社会主義へ移行するものと考えられ、誰しも人生一度はアカの洗礼を受けるのが当然とされた時代があった。それがソ連の崩壊と云う形で結末を迎え、その間、ケインズ理論、スタグフレーションの時代を経て、今はグローバリゼーションの時代を迎えた。
 グローバリゼーションとは言い換えれば、一国覇権国家アメリカ化ということである。アメリカ帝国は世界を征服しつつある。それは領土の征服ではなく、富つまり所得の独り占めである。アメリカの強さの秘密は軍事力によるものか、金融力によるものかは議論があるが、後者であろう。民主主義の時代富の配分は開かれた市場に任せれば良しとされた。しかし今、市場は富の集中をもたらし、貧富の差は拡大するばかりである。民主主義の根底には平等性が大きな要素であったが、平等性とは逆の方向に世の中は進んでいる。 このグローバリゼーションの流れはこれに抗するものは生存を許さないかのようである。
 小泉政権の「構造改革」の掛け声はこのアメリカ化流れに乗ろうとしたものだったことが歴然としてくる。日本を含めてアメリカ以外の国々では、本当にこれで良いのだろうかという疑問が当然湧く。その疑問にこの本は明快に答えてくれる。グローバル化反対の勢力の存在は勇気付けられるが、私のような悲観主義者にはなかなか希望は見えない。
 閑話休題
 先般フランスで若者のデモがあった。久方のスチューデントパワー炸裂かと朝日新聞の記事を読んだが、同紙はこれをフランスが移民を同化しきれない社会問題として報道した。このことに割る切れない思いを引きずってきたが、本書を読んで疑問が氷解した。移民問題ではなく格差の進行というグローバリゼーションの問題だったのだ。「訳者あとがき」でこのことを知った。

 書名 グローバリゼーション・新自由主義批判事典
 著者 イグナシオ・ラモネ
 訳者 杉村昌昭ほか
 発行所 (株)作品社