随 想(思いつくまま)

(4/23) 「斜陽に立つ」を読む
 古川薫著「斜陽に立つ」を読んだ。乃木希典は司馬遼太郎の「坂の上の雲」で無能の烙印を押されたのを、長州出身の作家古川薫が、同じく長州出身の乃木希典と児玉源太郎を双曲線としてその復権を願った小説である。
 ペラペラとページをめくるほどに、私がかって住んでいた六本木近くの「日ケ窪」(注)
という地で乃木将軍が生まれている記述があり、それにつられて最後まで読むことになった。それに加えて、昔読んだ雑誌(名前は忘却)の特集記事「乃木希典殉死」がよみがえったからだ。その記憶とは、乃木将軍が殉死の時、『・・・二階から妻静子を呼ぶ声があり、それに応えて「私はいやですよ」と静子は明るい声で答え、二階に上がって行ったが、そのまま降りてくることはなかった」と当時のお手伝いさんの証言を記事は伝えていた。記事はいやに生々しく是が真実で、夫人は必ずしも共に殉死することを考えておらず、殉死は想定外であったのではないかと感じていた。その証言者本人ではないが、当時の私の友人の祖母に当たる人が同じくお手伝いさんとして乃木邸で働いていたという話を聞いていたこともあり、この記事は鮮明に記憶に残っている。今回この場面がどう書かれているか興味があった。この本では白装束に身を固めた覚悟の殉死であったとしている。
(注)昔長州藩の屋敷があったらしい。今は再開発され乃木氏ゆかりの石碑なども撤去され、六本木ヒルズが建ちその面影はなく著者は残念がっている。