随 想(思いつくまま)

(3/21) 原爆投下の周辺事情
 20世紀の10大ニュースで断突のトップが「原子爆弾投下」であることに異論はない。原爆投下を巡ってどんな考察、論戦が展開されたのだろうか。当時の関係者が回顧録を残して、或いは無言のうちに鬼籍に入り、時の経過と共に極秘文書が公開される中で、真実が姿を現す。「世界を不幸にする原爆カード」なる本を読み、長生きするのも悪くないと思う。
 上記の本は原爆投下前後の、わりに短い時間のアメリカ政府の動きを丹念に追って、その責任は誰のあるのか、原爆が果たした負の遺産を解明する。
 戦争の末期、日本の敗北が決定的な中で、原爆が投下された理由として、「失わるたかもしれない多くの(100万人ともいう)人命を救済するためである」という公式の見解がある。しかし、それはまやかしで、アメリカが対ソ連の外交カードとして原爆を使ったというのが真実だという。日本は抵抗しても年内一杯と見ており、本土上陸作戦は沖縄戦の経験から容易に踏み切れないなか、100万人の犠牲は何の根拠もないとする。また日本がソ連を通じて和平交渉をしていることは暗号文の解読で、アメリカに筒抜けになっており、天皇制護持を容認すれば、日本はポツダム宣言を受諾することを半ば知っておりながら、それを隠し、いたずらに戦争を長引かせ、ソ連参戦前に原爆を使用しようと考えた。トルーマン大統領とバーンズ国務長官側にその責任があるとする。
 トルーマン大統領はルーズベルト大統領の突然の死により副大統領から昇格した大統領であり、不得手な外交は”借り”のあるバーンズに一任せざるを得なかったという政界の事情も大きく関係している。原爆投下を巡ってなんら哲学的、宗教的、良心的な考察もないまま、20億ドルという巨額な開発費用を投じた以上、使用するのは当然といった単純な論理が、慎重な陣営(陸軍長官ステムソンなど)を抑え、まかり通ったとしか言いようがない。
 歴史にイフは許されないが、ルーズベルトが生きていたら世界は大きく変わっていたであろうという感慨を持つのは著者だけではない。

 「世界を不幸にする原爆カード」--ヒロシマ・ナガサキが歴史を変えたーー
 著者:金子敦郎  2007年7月15日初版発行
 発行所:明石書店