随 想(思いつくまま)

(1/6) 「ウエルカムトウパールハーバー」を読む
 図書館にて「ウエルカムトウパールハーバー」が目にとまり、借り、読んだ。西木正明の久しぶりの作品であることに加えて、先の戦争の責任を全て軍部に押し付け、外務省が責任をとらなかったのは吉田茂が元凶だという説は正しいだろうか、外交のための情報収集、諜報活動、陸軍・海軍・外務省の縄張り争いが当時どのように絡み合ったのかが知りたかった。外務省に責任がないなどどう見てもおかしいのだ。
 書名で明らかな通り、日米開戦に至る2年間、いや主としてその6か月前の両国の外交上の駆け引き、日本に戦争を仕掛けるための日米交渉という名の「謀略」を詳細に追い、検証する。「真珠湾攻撃がアメリカ国民の厭戦気分をふっ飛ばし、国民が一致団結する願ってもない効果をもたらした」と言われるが、その罠はどのように仕組まれたのか、その罠が成功する12月7日を持ってこの本は終わる。
 戦争、外交に諜報活動は切っても切れない。実質軍隊の自衛隊を有する現日本の諜報活動はどうなっているのであろうか。反戦集会などを遠巻きに見守る公安の黒い集団が頭をよぎる。今、日本の市民は国際スパイ活動などキナ臭い裏の世界に無縁の日常生活を送ることができている。戦時中は観光名所の風光明媚な地はすべて立ち入り禁止の看板が立っていた、しかし今はない。諜報活動の実態に関心がないと言えば嘘になる。戦時中の標語「風に耳あり壁に目あり」といった相互監視の社会が再び来ないことを祈るとしか言いようがない。
「ウエルカムトウパ^ルハーバー」(上・下)
 著者 西木正明
 発行所 (株)角川学芸出版
 平成20年8月15日初版発行

1/8追記
 上記「ウエルカムトウパールハーバー」を図書館した際、返却テーブルに「ハル・ノートを書いた男」という新書版があった。恰も「小説を読んで全てが分かったような顔をするな、これも読め」と言われている気がして、その場で借り受けた。前者が諜報活動をベースとした「小説」であるのに対し、本書は外交を検証した歴史的学術書の範疇にはいる。
 当初の関心である、開戦の責任をすべて軍部に押し付け外務省が免責されている現状はおかしいのではないかという疑問は解けた。つもり外務省の責任おおありである。また真珠湾攻撃は大統領が事前に察知していながらあえてやらせたという説は未だ確証がないとしている。歴史にイフはつきものだが、開戦は必然であり、真相に触れた思いがしている。小説はこのようにして書かれるのかという思いもある。
「ハル・ノートを書いた男」 副題:日米開戦外交と「雪」作戦
著者:須藤眞志
文春新書028