口元に笑みを浮かべると、アキトはゆっくりと二人からラピスに視線を移し、歩み寄る。
微妙な距離で足を止めると、目線を合わせる。
そして、何時ものように、何時もとは違う声音で、彼女の名を呼んだ。
「ラピス」
「………」
「ラピス」
「………」
「俺は、何処にも行かない」
「………」
「ずっと、一緒だ」
「ウソ」
「嘘じゃ無い」
「………ウソ」
「嘘じゃ無い」
「………」
「ラピス」
「………」
「俺を、信じろ」
「―――ッ!?」
「俺達は、二人で一人………だろ?」
バイザーを外したアキトは、優しい笑顔でそう言った。
「アキト………アキトォ! アキトォ―――ッ!!」
ラピスは感情のままに、アキトの胸に飛び込んだ。
悲しい少女の、たった一つの願い。
それは今、叶えられたのだ。
「大丈夫………大丈夫だ、ラピス」
ラピスを抱きしめながら、優しく頭を撫でるアキト。
「アキト、ちなみに私はどうなんでしょうか?」
アイスが、どことなく楽しそうに、横から口を挟む。
「フン、地獄まで付き合え」
「………今一つな答えですね」
それでもアイスは、十分嬉しかった。
「させません! ナデシコC、フル加速ッ!!」
「アキトォ! 今、助けるからねェ―ッ!!」
「アイス」
「もう、間に合いません」
「だよな………良かった」
全ては、手遅れだった。
「良くありません! アキトさん、お願いですッ! 私達を、置いて行かないで下さいッ!!」
「そうだよ、アキトォ! アキトォ! アキトォ―――ッ!!」
ユーチャリスが、ボソンの光に包まれる。
アキトの胸で泣く、ラピス。
優しく抱きしめる、アキト。
それを見守る、アイス。
アキトの顔は、穏やかであった。
その時、ふと、アキトの頭に大切な人達が浮かんだ。
―――ユリカ、すまん………愛してる。どうか幸せになってくれ。
―――ルリちゃん、ごめん………迷惑ばかり掛けたね。ユリカと仲良く幸せに。
―――ごめんね、アイちゃん………戻れそうもないや。俺は嘘吐きなんだよ。
―――エリナ、ありがとう……世話になった。お前のお陰で俺は………
心残りは、ラピス。
ラピスだけは助けたかったが、今更どうしようもない。
アイスは、この際良しとしよう。
アキトは思う。
そんなに悪い人生じゃ無かったかもな………
こうして『闇の王子』を乗せた戦艦ユーチャリスは、この宇宙から消えた。
愛する人、守るべき人、心許した人、全てを置き去りにして………